電通の企業分析

今回は電通の企業分析です。

毎年の就職ランキンでも常に上位で人気のある電通、一体どんな会社なのでしょうか。

電通は国内No.1の広告代理店

みなさん、ご存知だと思いますが電通は国内No.1の広告代理店で、2位の博報堂と比べても売上で約1.3倍、社員数で約2倍と圧倒的な存在です。(博報堂との比較は単体同士の比較で、ホールディングスでの比較ではありません)創業は1901年だそうで、すでに120年近い歴史があります。

テレビCMで圧倒的な存在感があったり、オリンピックやサッカーW杯に関わっている、政治とも深いつながりがあるなど様々なイメージがある電通ですが、一体どのようなビジネスを行なっているのでしょうか。詳しく調べていきたいと思います。

広告代理店のビジネスとは

広告代理店のビジネスは顧客企業のマーケティング部門に変わってどの媒体に広告を出稿すると一番効果があるのかを考え、実際に出稿し、その効果などを分析し、顧客に報告するビジネスです。ビジネスのモデルとしては、媒体出稿額から手数料(2割など)としてもらうのが一般的です。

この広告代理店のビジネスモデル自体はどこの企業でも大きくは変わらないと思います。電通が特別なのは長い歴史の中でテレビCM枠を寡占的に販売するポジションを確立してきたことだと思います。実際に日本国内のテレビCMを制作してるのは大部分が電通と博報堂だと思います。長い間このような状況が続いてきた中で、実際にテレビCMに関するノウハウというのは限られた会社にしかないため、広告主にとってはテレビCMを流すには電通に頼るのが一番効率的で、またテレビCM枠を持っているテレビ局にしても電通に任せればCM枠を販売してもらえるので、広告主、電通、テレビ局の3社にとってメリットがあったのでこの関係が続いてきたのだと思います。

またテレビCMを流す企業というのは大企業なので、テレビ以外へのマスメディアへの出稿もありますが、テレビCMを軸に全体のキャンペーンを設計することで全体のマーケティング効率も上がるので、テレビCM以外の媒体への出稿についても電通に任せるのが一般的だと思います。そんな感じでに日本の大企業から多くの広告予算を預かりテレビCMを軸に、マーケティングキャンペーンを展開することで顧客企業に貢献してきたのだと思いますが、広告主としては広告制作も一社に統合できると管理が楽ということで、電通は広告枠の買付、出稿管理だけでなく、広告制作(クリエイティブ)もやっています。そのような流れで広告制作だけでなく、広告主にとって必要であればイベントの開催などもサポートします。こうしてどんどん電通内に包括的な広告主の広告宣伝をサポートする機能ができてきたのではないでしょうか。その他の広告代理店では、媒体の買付、出稿だけをやっている小さな広告代理店も多いので、電通の幅広いサポートが特殊であることがわかります。また顧客の大部分が国内の大企業であることから、オリンピックやサッカーワールドカップのスポンサー獲得を期待され、世界的なスポーツイベントやJリーグにも深く関わるような仕事もあるようです。大口スポンサーが必要な大規模イベントには電通が関わる機会も多いのでしょうね。このように同じ広告代理店という業種であっても電通とその他の企業ではスケールが違ってきますし、大きな仕事ができるのが電通が就職先として人気の理由なのだと思います。

就職先としての電通の魅力

すでに知られているように電通社員は高給取りであるとは思いますが、それ以外にも電通に就職するメリットはあると思います。その一つが、電通でしか付けない仕事があるということです。例えば、コピーライターやCMプランナーなどの職種は電通ならではだと思います。いいキャッチコピーが重要なのはわかりますが、中小企業でキャッチコピーに何十万円も支払うことができる企業はほとんどありません。キャッチコピーを専門に考えるコピーライターやCMの企画を専門に担当するCMプランナーという職種があるのは、常に大企業のCMを作り続けるほど案件が獲得できる電通だからこそある職種だと思います。実際にこれらの専門職種を採用している広告代理店がは電通と博報堂ぐらいしかないのではないでしょうか。

その他の魅力としては、やはり案件の大きさや世界的なイベントに関われる、新しいトレンドを作るといったところでしょうか。

将来の展望

圧倒的な存在感を放つ電通ですが、将来の展望としてそこまで明るいわけではないと個人的には考えています。

理由は2つ。分けて書きましたが、実際には関係してます。

  1. テレビの衰退
  2. インターネット広告の成長

テレビの衰退についてですが、これから就職するような若い世代では特に顕著だと思いますが、すでにテレビは昭和の時代にそうであったようにお茶の間の中心にあって、みんながみたい番組を取り合うような存在ではなくなっています。テレビ以外にもインターネット、SNS、youtube、スマホ、ゲームなど様々なメディアが存在しており、テレビが特別な存在ではなくなっています。その証拠にテレビの視聴率は下がる一方です。

また最近ではテレビ自体の存在が問われなおされています。この時代に決まった時間にテレビの前にいなければ番組を見られないなんてナンセンスです。テレビ局の偉い人が編成した番組表に人生をコントロールされるのは昭和の発想で、これからは視聴者が見たい時に好きな番組を見れる方が圧倒的に自然で、視聴者にとってメリットがあります。ネットフリックスやアマゾンプライムであれば、好きな時に好きな番組を見ることができますし、最近浸透してきた見逃し配信(TVer)でも視聴者が好きなときに番組を見れます。(期限はありますが)この流れは先行する海外などを見ても、日本でもますます加速していくことが予測できます。テレビ番組が見られない昨今、とうぜんテレビCMの効果も昭和時代のようには効果的ではなく、テレビCMに懐疑的な広告主も増えています。その証拠に、以前はテレビCMを流せていなかった業種、消費者金融や過払金などのCMは最近は増えています。テレビCMは1時間に放送できる数に限りがあるので、以前は枠を確保するもの大変で、当然審査もありますから優先的に有料企業のCMが中心だったわけですが、テレビCMを出稿する企業が減ったので、以前は許可していなかった業種のCMも認めなくてはいけなくなっていると考えられます。テレビ局もビジネスをやっているのでしかないとは思いますが、将来的にタバコやパチンコのCMばかりになったら子供への悪影響もあるのではないかと思いますが、どうするのでしょう。いずれにしても、テレビCMの効果が疑問視されてきており、CMを出したい企業が今後も減ってくると考えれ、そのなればテレビCMの企画・制作などを行なっている電通への影響もあるのではないかと思いますが、どのように対応するのでしょうか。

コロナ禍の電通の業績

12月7日に電通が2020年12月期の業績予想を発表しました。それによると海外を含む電通グループの業績は237億円の赤字になるようです。それに伴い5800人の人員削減も発表しています。このニュースだけでは国内の電通への影響は分かりかねますが、このような状況ではボーナスが減額されたりすることもあるのではないかと思います。コロナの影響がどれほど続くのかはワクチンなどの開発状況にもよりますが、まだしばらく1、2年は少なからず影響すると思うので直近は厳しい状況が続くのではないかと思います。広告業界は顧客である企業の業績に左右されることが多く、コロナ禍で業績を伸ばしている企業も一部にはあるものの全体的には業績を悪化させている企業や倒産企業数も増えているのでこれらの企業が立ち直らないと電通の業績もコロナ前の水準には戻らないと予想できます。

キーポイントはデジタルトランスフォーメーション

上記で記載したことは電通もとっくに認識していることで、最近はその打開策としてDX(デジタルトランスフォーメーション)領域への進出を強化しているようです。デジタルトランスフォーメーションというのはざっくり言うと、最近のテクノロジーを使って、アナログでやっていた非効率な作業をなくしたり、今までになかったようなサービスを一般消費者に提供することだと思います。

こちらの記事にあるように電通はマーケティング領域での顧客のDX推進をサポートするサービスを最近はじめています。このような領域を拡充することで将来落ち込みが予想される従来型の広告代理店ビジネスを穴埋めするようです。この領域での成功できるかポイントになりそうですね。しかし、この領域はIBMやアクセンチュアといったITコンサル勢が得意とする領域ですし、Googleはこの領域のプロダクトを数多く持っています(GoogleAnalyticsやBigQuery、DataPortalなど)。スキルという点でも今までの広告代理店ビジネスをやっていた人がやるにはかなり畑違いです。今まではど文系・ゴリゴリの体育会系の人材を中心に採用していたのに、これからのDXで求められるのはプログラミング能力や統計などのガチ理系のスキルになるので、なかなか難しいとは思いますがどのように勝負していくのでしょうか。採用する人材に求めるスキルにも変化があるかもしれないので、就職活動・転職活動を行う際にはこのあたりを深掘りしていくのも良いかもしれません。

電通のスコア

最近は残業を減らすようにしているようで、その分残業代がもらえず以前ほど年収が高くない傾向にあるようです。とはいえ、業界内ではトップ、全業種の中でもかなり高いことには間違いないので待遇面では文句のつけようがありません。また残業が少なくなるということは、ワークライフバランスも以前よりは改善しているといえそうです。

キャリア形成という点からも非常に魅力的です。どのようなスキルがつくのかは、配属される部署・職種によるところは大きいのですが、特に若手の場合は転職市場でもまず電通に入社できたという実績や、充実したトレーニングを受けられているという期待感などで30歳ぐらいまではとても高い評価を受けると思います。30歳以降は当然何をやってきたか、できること(スキル)、経験などで評価される比率が高くなります。ただ実際に30歳以降に電通から転職しても年収が上がる企業も限られてくるため、転職自体が多くない印象もありますが。

電通とライフシフトプラットフォーム 

2021年1月追記 – こちらのリンクにあるように電通が新しい働き方を発表しました。とても興味深い内容なので取り上げてみたいと思います。

概要としてはこうです。「特定の条件を満たした社員を対象に、ライフシフトブラットフォームという制度を用意する。これは独立志向のある社員に対しては、電通と業務委託契約を結ぶ個人事業主になってもらい、その社員は電通と利益相反にならない範囲で個別に外部企業から仕事を受けてもいいというもの。これによって、個人は会社の意向と合わないキャリアを追求することができる。応募条件は新卒であれば勤務20年度、中途の場合は5年後から応募できるもよう

「体のいいリストラでは」という意見もあるようですが、個人的には興味深い制度だなと思います。今までであれば独立しようと思ったら、会社をやめてからでないと別企業の仕事を受けることはできなかったので、とてもリスクがありました。そのような志向の持ち主にとっては非常に魅力的な制度になるのではないかと思います。最長10年間は電通からの仕事をもらえるようですし、平行して自分で別企業からの仕事を受けることができます。逆にそのような志向がない社員がこの制度に半強制的に応募させられるようなことがあると、それはある種のリストラ施策と捉えられても仕方がないと思います。結局は、制度そのものの良い・悪いではなく、どのように運用するか、誰が制度を使うのかによって評価が分かれそうではありますが、新しい制度を検討し、実行することはいいことなのではないかと思います。

あとは結局のところ、電通といえど今から40年後も今と同じような地位にいられる保証はどこにもないほど、先が見えない時代になっていると思います。特に、若者のテレビ離れが深刻になってきている近年では従来通りのテレビCM一辺倒では企業のマーケティングは完結しないと思います。20年後にはYoutubeでさえ古くなっているかもしれません。そのような時代に自分の社会人人生の40年を一つの企業に委ねることが無理があると思いますが、みなさんはどう思われますか。